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コラム

お口の健康の「今まで」と「これから」 〜歯ブラシだけではダメな理由〜

コラム

こんにちは。広瀬通り歯科クリニック院長の遠藤義樹です。

今回は「お口の健康の『今まで』と『これから』」をテーマに、なぜ毎日の歯ブラシだけでは不十分なのか、そしてこれからの時代に求められる「予防歯科」の本当の意味について詳しくお話しします。

日本人の「虫歯」は減っているのに、「歯を失うリスク」が高まる理由

虫歯ゼロの子どもが増加する一方での落とし穴

近年、メディアでも「歯科医院の倒産傾向」や「子どもの虫歯の減少」が話題に上ることがあります。実際に、現代のお父さんやお母さんの予防に対する意識は非常に高く、12歳の子どもの虫歯本数は40年前と比べて劇的に減少しています。一度も虫歯になったことがないという子どもたちも珍しくありません。

これは素晴らしいことですが、その一方で「歯が残るからこそ、別のリスクに直面している」という現状があります。

虫歯が減った現代だからこそ増える「歯周病」

虫歯で歯を失わなくなった結果、多くの歯が大人になってもお口の中に残るようになりました。しかし、定期的なケアを怠ったまま放置してしまうと、今度は「歯周病」によって歯がグラグラになり、最終的に抜歯を余儀なくされるケースが増加しているのです。

現在、大人が歯を失う主な原因はではなく、歯周病、あるいは強い力がかかることによる歯の根っこの破折(割れること)へと変化しています。

虫歯と歯周病は「バイ菌の感染症」

お口の中には、誰しも多くの細菌(常在菌)が存在しています。健康な状態であれば善玉菌と悪玉菌のバランスが保たれていますが、このバランスが崩れると病気が進行します。

  • 虫歯の原因菌(ミュータンス菌など)
    糖分を餌にして「酸」を作り出し、歯の表面(エナメル質)を溶かします。
  • 歯の防衛反応と「膿」の意味
    歯ぐきが赤く腫れたり血が出たりするのは、体の中の自衛隊である「血液(白血球など)」が集まってバイ菌と必死に戦っている証拠です。しかし、出血を通り越して「膿(うみ)」が出る状態になると、体の免疫がバイ菌に負け始めているサインです。

薬やうがい薬が効かない?「バイオフィルム」のバリア

細菌が集まると、お互いに身を守るために「バイオフィルム」と呼ばれる強固なバリア(膜)を形成します。このバリアが完成してしまうと、どれだけ高性能なうがい薬を使っても、あるいは抗生物質などの薬を飲んでも、成分が中の細菌まで届きません。

だからこそ、このバリアを「物理的に破壊して取り除く」ケアが必要になるのです。

お口のバイ菌が全身に及ぼす恐ろしい影響

お口の中の血管は、当然ながら全身の血管へと繋がっています。歯周病を放置すると、バイ菌や炎症物質が血管を通じて全身を巡り、様々な重篤な疾患を引き起こすことが分かっています。

  • 心疾患・動脈硬化
    歯周病菌(P.g.菌など)が血管内に入り込むと、血栓(血の塊)を作りやすくなり、心筋梗塞や動脈硬化のリスクを高めます。
  • 糖尿病との深い相関関係
    歯周病による炎症は、血糖値を下げるインスリンの働きを悪くします(インスリン抵抗性)。逆に、歯周病治療をきちんと行うことで、糖尿病の指標であるHbA1cの数値が改善することが科学的に証明されています。
  • 誤嚥性肺炎(ごえんせいはいえん)
    お口の中のバイ菌が誤って気管から肺に入り込むことで発症します。特にご高齢の方にとって命に関わる病気です。
  • 妊婦様への影響
    進行した歯周病は、早産や低体重児出産の確率を大きく高めてしまうため、妊娠前のケアが極めて重要です。

今日から実践できる正しい「セルフケア」

毎日のホームケアは予防の土台です。しかし、良かれと思ってやっていることが、実は歯や歯ぐきを傷つけていることもあります。

歯ブラシは「鉛筆持ち」で優しく

力を入れてゴシゴシと横に大きく磨く「靴磨き」のような磨き方はNGです。歯ぐきが下がったり、歯の根元が削れて知覚過敏の原因になります。歯ブラシはペンを持つように「鉛筆持ち」し、軽い力で小刻みに動かしましょう。1箇所につき10秒ほど数えながら磨くのが目安です。毛先が広がってきたら(約1ヶ月が目安)、新しいものに交換してください。

歯磨き粉の選び方と「うがい」のコツ

研磨剤が大量に入っているものや、「スクラブ(粒々)」入りのものは避けた方が賢明です。粒々が歯周ポケットに入り込んで炎症を起こすトラブルが多発しています。また、磨いた後のうがいは「少量の水で1回だけ」軽くゆすぐ程度にすると、薬効成分(フッ素など)がお口の中に残りやすくなります。

歯間ブラシとデンタルフロスの使い分け

歯ぐきが下がっていない健康な方が無理に歯間ブラシを差し込むと、かえって隙間を広げてしまいます。歯と歯の間が詰まっている方は「デンタルフロス(糸用児)」を使い、歯周病が進んで隙間が広くなっている方は「歯間ブラシ」を使いましょう。

タイミングは「だらだら食い」を避けて

食事をするとお口の中が一瞬で「酸性」に傾き、歯が溶けやすい状態になります。通常は唾液の力で時間をかけて中性に戻りますが、だらだらと常に間食をしていると、お口の中がずっと酸性のままになり、虫歯が一気に進行します。食事の後、30分ほど経ってから磨くのが理想的です。特に唾液の分泌が減る「就寝前」と、細菌が増殖している「起床時(朝食前)」のブラッシングが効果的です。

歯科医院で行う「プロフェッショナルケア(PMTC)」の重要性

自分で行うセルフケアでは、歯ぐきの上(目に見える部分)の汚れはある程度落とせますが、歯ぐきの下(歯周ポケットの奥)にこびりついたバイオフィルムや歯石までは落とせません。

そこで必要となるのが、歯科医院で専門の器具を使って行うPMTC(プロフェッショナル・メカニカル・トゥース・クリーニング)です。

痛くなる前に「バリアを壊しに行く」のが本来の歯科治療

多くの人は「痛くなったら歯医者に行く」と考えがちですが、それでは遅いのです。バイオフィルムは一度徹底的に除去しても、約3ヶ月〜4ヶ月(90〜120日)で再び熟成し、元の悪い状態に戻っていくという科学的データがあります。

そのため、「痛みがなくても、34ヶ月に1度は定期的に歯科医院へ行き、バイオフィルムをリセットする」。これこそが、将来にわたってご自身の歯を残すための最も確実な「治療」なのです。

万が一、歯を失ってしまった場合の選択肢

どんなに気を付けていても、不慮の事故や過去の病気で歯を失ってしまうことはあります。その際、失った機能を回復するための主な方法は以下の3つです。どれが優れていてどれが劣っているということはなく、患者様のライフステージやご希望に合わせて選ぶべきです。

インプラント(人工歯根)

骨に金属のネジを埋め込むため、しっかり噛めます。ただし、インプラントには天然の歯にあるような「クッション(歯根膜)」や「感覚神経」がありません。また、将来的にご自身で介護を受けるようになった際、周囲の衛生管理(インプラント周囲炎の予防)が非常に難しくなるという長期的な課題もあります。

ブリッジ(橋渡し)

両隣の健康な歯を削って一体型の被せ物をします。ご自身の歯の感覚に近い状態で噛めますが、土台となる歯に大きな負担がかかるデメリットがあります。

入れ歯(義歯)

取り外し式のため嫌がられることもありますが、現代の入れ歯技術は非常に進歩しています。金属のバネが見えない美しいデザインのものや、上下一対でピタッと吸着して外れない精密な入れ歯を作ることが可能です。取り外して丸洗いできるため、将来的な介護の視点からもメンテナンス性が高いという大きなメリットがあります。

信頼できる歯科医院の選び方

皆さんが歯科医院を選ぶ際、ぜひ見ていただきたいポイントがあります。それは「歯科医師と歯科衛生士が、あなたのためにしっかりディスカッションをしてくれているか」という点です。

ただ衛生士が機械的にクリーニングをして、最後に医師がパッと見て終わり、という体制ではなく、現在のあなたのお口のリスク(噛み合わせのバランスや生活習慣)をプロの目で総合的に診断し、チームとしてアプローチしてくれる医院が理想的です。

そして何より大切なのは、「先生やスタッフとフランクに話し合える、相性の良さ」です。疑問に思ったこと、不安なこと、ご自身の希望(「これ以上歯を削りたくない」「入れ歯のここが痛い」など)を躊躇なく相談できる歯科医院をぜひ見つけてください。

お口の健康は、全身の健康、そして毎日の食事が美味しいという「口福」の入り口です。何もないうちから、髪を切りにサロンへ行くような感覚で、ぜひ定期的なメインテナンスに歯科医院を活用してくださいね。

遠藤 義樹 院長

■この記事の監修者

遠藤 義樹 院長

経歴
  • 1961年1月 東京都生まれ
  • 1986年3月 岩手医科大学歯学部卒業
  • 1991年3月 岩手医科大学大学院歯学研究科修了 学位取得(歯学博士)
  • 1991年4月 岩手医科大学歯学部歯科補綴学第一講座 助手
  • 1995年9月 公益社団法人日本補綴歯科学会 専門医取得
  • 2000年2月 岩手医科大学歯学部歯科補綴学第一講座 講師
  • 2003年4月 公益社団法人日本補綴歯科学会 指導医取得
  • 2004年4月 岩手医科大学歯学部 非常勤講師
  • 2005年5月 岩手県盛岡市 よしき歯科クリニック 院長
  • 2012年4月 岩手医科大学歯学部 臨床教授
  • 2016年4月 日本有床義歯学会 専門医・指導医取得
  • 2020年4月 宮城県仙台市 (医)ハイライフ東北 仙台青葉通り歯科医院 院長
  • 2023年5月 宮城県仙台市 広瀬通り歯科クリニック 院長
  • 2024年4月 一般社団法人日本歯科専門医機構 補綴歯科専門医取得
所属学会・資格・役職
  • 岩手医科大学歯学部 臨床教授
  • 日本歯科専門医機構 補綴歯科専門医
  • 日本補綴歯科学会 専門医・指導医
  • 日本有床義歯学会 専門医・指導医,常任理事
  • 日本歯周病学会
  • APS(American Prosthodontic Society) active member

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